このサイトは金融商品取引法で定められた「財務報告に係る内部統制報告制度」に従った内部統制を効率よく構築する為の方法を考えるのではなく、もっと”原始的”な、そしてもっと”基礎的”な観点から内部統制を理解し直すことを一つのゴールと考えています。更に、その理解に基づき、普段はスポットライトの当たることがない、間接業務を捉え直して、より適切な会社運営をするにはどうすればよいかを考えること、これがもう一つのゴールになります。
語弊を恐れずに言えば、内部統制自体、間接業務の一つです。もちろん、それに異議を唱える方もいますが、間接業務が企業の業績に直接影響を与えない業務という定義をするならば、内部統制は紛れもなく間接業務と言えるでしょう。しかし、内部統制がその他の間接業務と大きく異なるのは、内部統制は、業務を可視化するという特徴を持っている点です。例えば、居酒屋やカフェのトイレに、下図のようなチェックリストが掛かっているのを見たことがある人も多いのではないでしょうか(Fig. 1)。
Fig. 1 トイレ掃除チェックリスト
このチェックリストは、
定期的にトイレを掃除すること
掃除すべき点や備品がちゃんと備え付けられていること
を確認するためのものです。もちろん、従業員であれば掃除をすることは理解しているはずですが、チェックリストを用意してタスクを可視化し、掃除忘れ漏れを防います。
トイレが汚いお店には二度と行きたくないですよね。そういう意味でいうと、これは大切な内部統制の例の一つです。一方、このように「お客様に直接影響を与える間接業務」については、多くの注意が払われていますが、それ以外の純粋な間接業務にはそれほど注意は払われていません。それはなぜでしょうか?
企業の経営について考える時、多くの人がまず最初に思い浮かべることは、如何に良い商品やサービスを開発し提供すべきか、無駄なコストを削減し生産性を高めるにはどうすべきか、といったことだと思います。特に製造現場でのコストの削減は、海外でも「Kaizen」という単語が生まれるほど、日本の製造業の十八番でもありました。
その一方、それ以外の、会社の中で日々行われている何気ない間接業務が「経営者の期待通りに動いているか」ということについては、あまり話題にのぼることはありません。理由は簡単で、間接業務は決してワクワクするような仕事ではないからです。もちろん、経理・人事・総務などの間接部門の人間であれば真剣に「カイゼン」を考えている人もいるとおもいます。しかしながら、間接業務は間接部門の中だけではなく、会社内部の至る所に存在しますし、それ故、それが自分の仕事の成果に直結しない人にとっては、多少非効率でも(時にはそれが変な処理であっても)、自ら声を上げるほどでもない・・というのが本音でしょう。すなわち、現実の会社組織は元来、経営者・管理者が意識していないレベルで、無駄、時には不適切な状態が発生するものといえます。間接業務は
経営者には見えづらく、且つ、現場の人間もあまり積極的には取り組みたくない仕事
だから、注意が払われることが少ないのです。(むしろ、経営者に見えづらいからこそ誰もやりたがらないといってもいいでしょう。)
であるならば、経営者自身がそのような「仕事」にも適切に目配りするべきではないかという話にはなりますが、それが理想ではあっても、日々経営にかかわる重要な意思決定に忙殺されている経営幹部にとっては、至難の業でしょう。従って、何とかしてそのような仕組みを会社の中に埋め込むしかありません。
「会社」は一つの生き物のようなものです。取締役会や社長が”頭脳”であれば、その意思を伝達する神経が管理職、そして、実際のものやサービスを考え、生産し、販売する社員が”手足”といえるでしょう。しかしながら、「会社」はただ一つの個体からなる生き物ではなく、多くの「個人」、更に言えば多くの全く異なる考えや価値観を持った人たちの集合体です。そのような多様性があるからこそ、組織というのは強靭になりうるポテンシャルを秘めていますが、その一方、異なる価値観をもった人間が、常に経営者にとって最善の行動をすると考えることは無理があります。ましてやそれが経営者が興味を持つことができない(または、興味がない)仕事であれば、なおさらです。
それでは、それを解決するのが内部統制なのでしょうか? 正直なところ、それはわかりません。しかし、内部統制を理解し、内部統制という名の「光」によって、(決してエキサイティングとは言えない)間接業務を浮かび上がらせ、会社に潜む様々な問題点の輪郭だけでも掴むことができたのだとしたら、それはとても意義のあることだと思います。
それでは、一緒に内部統制を理解する旅へ出発しましょう!
Sumiyama
July 20, 2024