内部統制の定義
まず、一般的に内部統制の定義と言われているものを確認してみましょう。
金融庁が出している「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」には、内部統制に関して次のように定義しています。
「内部統制とは、基本的に、業務の有効性及び効率性、報告の 信頼性、事業活動に関わる法令等の遵守並びに資産の保全の4 つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されるプロセ ス 」
(Source:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」より )
ここで少し気になるのが、一番最初に出てくる「有効性」「効率性」という言葉です。報告の信頼性や法令の遵守など、そのあとに続く記載については違和感はありませんが、「有効性」「効率性」と聞くと、やや相反した概念のように聞こえます。
この定義を最初に考えた人たちは、おそらく内部統制は有効性や効率性に寄与するものだから大切ですよと言いたいために、この言葉を定義の最初に持ってきたと思うのですが、内部統制に比較的深く関与したことのある方の中には、上記の通り、「大切だとは思うけど、法令順守と効率性・有効性は両立するものなのか」と思う人もいるのではないでしょうか。
ここでいう「有効性」「効率性」とは、一体何を指しているのでしょうか。
この違和感は、自分個人の有効性・効率性と会社のそれらを取り違えるところから生じています。結論から言ってしまうと、この定義の中の有効性・効率性とは、個々の従業員のものではなく、会社全体の有効性・効率性のことを指します。
私たちはつい、「個々の従業員の有効性・効率性が高まれば、会社全体の有効性・効率性も高まる」と無意識のうちに思ってしまいがちですが、必ずしもそういうわけではありません。例えば会社の中に、非常に儲かる可能性のある事業部Aと、そうではない事業部Bがあるとします。この場合、会社として事業部Aに多くの投資をすることは自然なことと思いますが、事業部Bの人は必ずしもそう認識していません。「事業部Bだって、改善を繰り返してきたおかげで収益率が改善してきた。今後はもっと伸びる。」と信じている人もいるでしょう。 そのような人たちにとっては、事業部Aばかり優遇されるのは、釈然としません。
「会社としては有望な事業に投資するのは当然だよね。B事業部の人たちは視野狭窄だ。」と傍からいうのは至極簡単ですが、実のところ、話はそう単純ではありません。なぜなら、このような大きな話だけではなく、経営者レベルの仕事から、個人レベルのタスクに至るまで、何が正解か、何をもって成功とみなすのか、曖昧模糊としていて、従業員間で考え方にばらつきがあるからです。営業担当者であれば目に見える売上目標がきまっていることが多いと思いますが、それ以外のバックオフィス部門ではそのような分かり易いターゲットがあるわけではないので、個々の従業員、各部門、各事業部の考え方、価値観に違いが生まれてきます。このような状態のまま放置していると、綱引きのように1本のロープを右に引っ張る人もいれば、左に引っ張る人もいるのと同じ状況で、どの方向にもスムーズに進めません。とても有効で効率的とは言えないでしょう。
そこで、会社としての有効性や効率性を高めたいと思った場合、最終的には誰かが責任をもって異なる考え方の中から、一つを選び出し、会社全体としての方向性を決める手続が必要になります。
仕事には絶対的な正解というものは存在しない。人によって異なる価値観・考え方が必ず存在する。
関係者の間で合意ができなかった場合は、上席者の判断を仰ぐ。
それでも判断が分かれる場合は、社長や取締役会など、会社の最終意思決定機関に判断が委ねられる。
これは、ごく普通の意思決定のプロセスですが、言い換えると、これは、異なる考えを持つ従業員の意思や判断を経営者(=会社組織)の意思や判断に合わせるという作業です。(なお、ここで注意したいのは、社長の判断が100%正しく、従業員の考えはいつも間違っていると言っているというわけではありません。単に、組織としての意思を統一しているだけです。)
即ち、
”多種多様な価値観を持った個の集団を、一つのまとまった集団にする仕組み”
が内部統制であるといえます。
誰しも「自分にとってはあまり興味がない、好みではない、めんどくさいな~」と感じても、取り組まなければならない業務がありますよね。ただ、それは裏を返すと、自分にとっては面倒くさいこと=会社が大切にしていること(はず)となります。そしてこの等式が正しく且つ明確であればあるほど、それは会社から従業員への「メッセージ」と捉えることができるでしょう。
これが、内部統制を理解するための重要なキーであると、私は考えています。